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NIMIC通信 No.53(2010年9月)
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┏ [9] キーワードを読む
「多文化共生」について理解を深めるために(48)
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NIMIC設立の理念の中で大きなウェートを占める「多文化共生」。この言葉をキーワードに、2006年9月号から多文化共生に関わる本の紹介を始めました。
第48回目は、ネイティブ・インディアンの作家の自伝的作品をご紹介します。
『はみだしインディアンのホントにホントの物語』
シャーマン・アレクシー作 エレン・フォーニー絵 さくまゆみこ訳
小学館 2010年2月邦訳出版 ¥1500
ワシントン州ウェルピニットにある先住民保留地で生まれ育ったスポケーン族の少年アーノルドの話。保留地は美しい土地にあり一族みな親戚のようなスポケ−ン族の社会なのですが、まともな仕事がなく貧しさから抜け出せない。希望の持てない暮らしの中で、多くの若者が酒に絡んだ事故やけんかで死んでいく社会でもあります。
幾何の先生に勧められて、アーノルドは保留地の外のハイスクール、リアダン校へ転校するのですが、わずか35キロ先のそこは金持ち白人しかいない別世界でした。日中のリアダン校での暮らしと保留地の家での暮らし、どちらからもはみだしているアーノルドなのです。(原題は“The Absolutely Diary of a Part-time Indian.”)
取り巻く環境以外にも、アーノルドには水頭症の後遺症があり、身体がアンバランスでけんかに弱く、人間サンドバックのごとく殴られたりもしますが、本が好きでマンガを描く明るい少年です。少年時代をともに過ごした親友ランディや、リアダン校で友達になったかわいい女の子や天才君など……決して希望を失わずに、様々な出会いを重ねていくアーノルドの波乱万丈の人生は、手に汗握る面白さです。
作者自身の自伝的作品で、ボストングローブ・ホーンブック賞他多数を受賞。本人いわくこの本の「78%が事実」だそうです。
(NIMIC会員 根本百合)
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