第18回 『観光名所』のストライキ
ギリシャのビレウス港に船は錨をおろした。私たちは8台のバスに分乗して、古代ギリシャの面影を残すアクロポリスの丘に向かう。
季節は冬。2月なのだから寒いのは当然といえば当然だが、インド洋やオマーンといった夏の国からいきなり冬の国に放り込まれた感じだ。
青年たちは引き出しの輿から冬服を取り出して、がっちりと着込む。私も晴海埠頭を出航するときまで着込んでいたセーターやコートを引っ張り出す。
冬の身づくろいを終えて、いざアクロポリスの丘へ。ところが入り口で我々は入場を拒まれてしまった。入場券売り場には「ストライキ決行中」の看板が立ち、ネズミ一匹通さない厳戒態勢だ。
考えてみれば古代遺跡は国の文化財だから、ここで働いている人たちは国家公務員ということになる。彼らは賃上げを求めて時限ストライキの最中だったのだ。
「先生、私たちにまかせてください。世界の青年たちが見たがっているアクロポリスを、まさかストライキといって閉鎖するのはおかしい」、ギリシャの青年がいくらプログラムの趣旨を説明したところで、入場を阻む「国家公務員殿」にとっては、馬の耳に念仏。ストはストなのだ。
「午後三時においで。ストは3時までだから」の言葉に8台のバスは引き返す。今日はバスも電車もストのため、道は非常に渋滞している。
「私達はスト慣れしているの。ギリシャの経済状態は最悪だもの、無理ないでしょ」とソフィー、「でもストが解決策になるとは思えないけど」とK君。
K君は彼の持論を展開させたが「経済大国の人には、理解出来ないでしょうね」と言われて一言も無い。日本で観光施設がストで閉鎖など、聞いたことがないからだ。
午後、木枯らしの中をパルテノン神殿へ。「ソフィー、経済は今度にして写真とって」 「OK、続きはこの後ね」私たちは風の吹き抜ける白い神殿でポーズをとる。
「それにしても、こんなストライキをしていたら、ギリシャ経済は落ち込むばかりでしょう」経済談議はしばらく続きそうである。